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1. 超短パルスレーザー加工技術の開拓と原理解明

近年のレーザー技術の進歩によって発生が可能になった、高強度かつ高安定な超短パルスレーザーを用いることによって、単に物体の穴あけや切断を行うのみならず、他の方法では作製が困難なミクロンオーダーの微細3次元構造を作製することが可能になってきています。このようにして作製した構造は、ミリ波、テラヘルツ波等の電磁波よりも小さいサイズであるため、適切な構造を作製することによって、新たな電磁波制御のための機能性材料として活用することができます。本研究では、このようなレーザーを用いた3次元構造作製技術の開発を進めると同時に、それを用いた新たな機能性材料の開発も進め、宇宙物理学や、次世代無線技術(Beyond 5G)など、様々な分野への展開を進めています。

一方で、特に超短パルスレーザー光によって物質の破壊現象が生じるメカニズムについては、いまだに明らかになっていない点が数多くあります。なぜレーザー光でものが壊れるのか、この問いに答えを見つけるべく、最先端の光制御技術とさまざまな計測手法を開発し、それらを駆使することによって研究を進めています。本研究によって、レーザーによる物質破壊というメカニズムの解明にとどまらず、その知見によってレーザー加工技術のさらなる進化につなげていくことを目指します。

メンバー:小西邦昭櫻井治之的場みづほ、川野将太郎
キーワード:超短パルスレーザー加工メタマテリアルテラヘルツ

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2. テラヘルツ波制御技術の開拓と次世代無線通信への応用

テラヘルツ波技術研究グループでは、人類に残された最後の未開拓電磁波領域であるテラヘルツ波(概ね100GHz~10THzの電磁波)を用いた様々な応用の実現を目指し、部品からシステムまでの研究開発を行っています。

広帯域無線通信技術・センシング技術

110GHz~800GHzのミリ波・サブミリ波・テラヘルツ波を用いた高速無線通信とセンシング技術(レーダやイメージング)を研究しています。広帯域利用により通信の高速化やレーダの高分解能化を実現します。さらに、4GHz~40GHzの広いベースバンド帯域を活用したセンシングシステムの開発も進めています。
主担当:永妻忠夫

半導体デバイス技術

テラヘルツ波システムの実現には発生器と検出器が不可欠であり、そのための半導体デバイスの研究を進めています。発生器として、高速・高出力な単一走行キャリア・フォトダイオード(UTC-PD)を開発し、光電変換による高周波信号発生の特性向上を図っています。また、検出器として、低雑音・広帯域なフェルミレベル制御バリアダイオード(FMBD)を開発し、ゼロバイアス動作での高性能化を追求しています。両デバイスとも世界最高性能を達成し、さらなる改良を進めています。
主担当:伊藤 弘

3Dプリンターを用いたテラヘルツ帯高機能導波管作製技術

テラヘルツ帯の伝送路では金属導波管が一般的ですが、サブmmスケールの製造が難しく、高コストな課題があります。これを解決するため、UV樹脂型3Dプリンター「RECILS」を活用し、狭小長尺かつ3次元自由形状の導波管の製造技術を開発しました。さらに、無電解めっきを施すことで金属導波管と同等の伝搬特性を実現し、各種コンポーネントの作製に成功しました。今後は、3次元テラヘルツ波集積回路の実現を目指し、通信・センシング分野の発展に貢献します。
主担当:湯本潤司

メンバー:永妻忠夫、伊藤弘湯本潤司
キーワード:テラヘルツ、3Dプリンター

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3. 先端分光技術開発

超短パルスレーザーによる超高速分光

近年、超短パルス光の振幅や位相を自在に操る技術が飛躍的に進展してきました。代表的な例として、光周波数コム(2005年)やアト秒パルス光(2023年)の発生技術がノーベル物理学賞の対象となりました。我々は、超短パルス光の特性を活かした新しい分光技術の開発に取り組んでいます。具体的には、光周波数コムを2台用いたデュアルコム分光や、高繰り返し単一パルス分光であるタイムストレッチ分光など、最先端の技術を開発し、世界最高速の分光技術を実現してきました。また、光ファイバーや高速光変調などの通信技術や非線形光学技術を巧みに応用した高性能計測法の研究も推進しています。これらの独自技術を化学や生物学の分野に展開し、機能性材料や生体試料の計測にも活用しています。

メンバー:井手口拓郎、橋本和樹、徐自聡
キーワード:超短パルス光、光周波数コム、分光、非線形光学

ラベルフリー顕微鏡と生命科学

細胞や組織などの生体試料の顕微観察は、生命科学における基礎的な実験手法の一つです。特定の生体分子を観察するためには、染色した試料を用いた蛍光イメージングが一般的に用いられますが、染色にはさまざまな課題が伴います。近年、蛍光イメージングの欠点を補う非染色のラベルフリーイメージング技術が飛躍的に発展してきました。我々は、生体分子の分子振動を利用した化学イメージングの先端手法や、光散乱の特性を活用した散乱顕微鏡の開発に取り組んでいます。例えば、世界最高の空間分解能を持つ赤外顕微鏡を開発し、細菌内部の微細構造を分子振動イメージングで可視化することに成功しました。また、開発した独自の顕微イメージング技術を活用し、細胞内熱現象の解明(薬学系研究科との共同研究)など、生物物理学における基礎研究も進めています。

メンバー:井手口拓郎、戸田圭一郎
キーワード:イメージング、顕微鏡、ラベルフリー、生命科学、生物物理学

量子光計測

近年、量子コンピュータに代表される、量子力学の原理に基づく次世代技術の研究が注目を集めています。分光やイメージングなどの光計測分野においても、量子技術による性能向上を目指した研究が進展しています。我々は、量子光学を活用することで、新たな機能や卓越した性能を備えた光計測技術の開発に取り組んでいます。

メンバー:井手口拓郎、橋本和樹、徐自聡
キーワード:量子光学、分光、イメージング

コンピュテーショナル光計測

コンピュテーショナルパワーの格段の進歩を背景に、さまざまな情報科学の技術を活用したデータ解析手法が開発されています。光計測の分野でも、これらの技術の導入が進んでいます。我々は、光計測の光学ハードウェアに工夫を加え、情報科学の技術を融合させることで、計測性能の向上や計測の簡便化を実現するコンピュテーショナル光計測技術の開発に取り組んでいます。具体的には、圧縮センシングや機械学習を活用した分光技術やイメージング技術の開発(情報理工学系研究科との共同研究)を行っています。

メンバー:井手口拓郎、戸田圭一郎
キーワード:コンピュテーショナルイメージング、圧縮センシング、機械学習

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4. 新規メタマテリアル・メタサーフェスを用いた光制御技術の開拓

現代の社会に不可欠となった半導体チップに搭載されているトランジスタのゲート長は、現在では数10 nmのオーダーにまで微細化が進んでいます。一方、可視光の波長はおよそ380 nm~780 nmです。すなわち我々は、光の波長よりもはるかに小さな構造を、金属や半導体で自在に作製する手法をすでに手にしているといえます。このような光の波長よりも小さな人工ナノ構造は、新たな物理現象発現の場となるとともに、人が設計したナノ構造の「形」で光との相互作用を自在に操作するという、新しい考え方に基づいた光制御が可能となります。我々は、このような人工ナノ構造における新現象の探索とそのメカニズム解明および光源応用を進めています。特に、波長が200 nm以下の真空紫外領域や、周波数1 THz近傍のテラヘルツ波と呼ばれる、制御手法の開発が求められている領域への応用を目指しています。

メンバー:小西邦昭櫻井治之的場みづほ
キーワード:メタマテリアル、非線形光学、テラヘルツ

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5. 半導体量子物性の開拓

極低温環境における精密分光を実現し、半導体中の電子正孔系を対象とした新たな量子物性の探究を行います。特に光物性物理学の難題である励起子ボース・アインシュタイン凝縮体を実現し、従来の量子物理学の枠組みを超えた非平衡開放系における量子統計物理学の研究を進めます。

メンバー:森田悠介
キーワード:半導体、光物性、ボース・アインシュタイン凝縮、低温物理、量子統計力学